数学 > 行列
行列はもともと数学的探究によりうまれた。ベクトル成分を縦横に拡張すればどうなるのだろうか、といって始まったのである。
横の並びを行、縱の並びを列と呼ぶ。すなはち行列である。重要なのは縱か横かでいえば横かと思われる。おのおのの成分には座標のようなものがあって、第i行の第j列にある成分を(i,j)成分と呼ぶ。
行ごとに左から右までの全ての成分をとりだして(第i行の)行ベクトル、列ごとに上から下までの全ての成分をとりだして(第j列の)列ベクトル、なんて呼ぶ事がある。
行列AとBがあり、このAとBの縱と横の成分の数が一致する場合を「AとBは同じ型である」と言い、その成分がおのおの全て一致する場合はその行列を「A=B;AとBは等しい」と判断できる。
各要素をそのまま足せばいいが、同じ型である必要がある。差分も同じ。型が違うと誰と足せばいいかわからなくなるでしょ?
&mimetex(\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2 & 4 \\ 6 & 8 \end{pmatrix});
難しく書くとこんな感じ
&mimetex(\begin{pmatrix} a_1 & b_1 \\ c_1 & d_1 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} a_2 & b_2 \\ c_2 & d_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a_1+a_2 & b_1+b_2 \\ c_1+c_2 & d_1+d_2 \end{pmatrix});
&mimetex(C_{ij} = \sum_{k=1}^m a_{ik} b_{kj});
行列AとBがあり、AにBを掛ける時、「Aの行ベクトルとBの列ベクトルの積(内積の計算方法に同じ)」を新たな成分として行列に変換する作業です。内積の定義から、Aの行ベクトルとBの列ベクトルの成分の数は同じである必要があります。新たな成分とする場合は、「Aの第i行の行ベクトル」と「Bの第j列の列ベクトル」の積の場合に、(i,j)成分とするのが決まりです。
以上から、足し算同様に掛け算を行うには制限があることがわかります。すなはち行列AとBの場合は、Aの列の数(行ベクトルの数)とBの行の数(列ベクトル)が一致する必要があります。行だとか列だとかややこしいので、図面を書いて確かめるように。
式ではこれを「AB」と表しますが、別にBにAを掛けるとして「AB=BA」となるとは限りません。それは上述の掛け算の定義から、よくわかることだとおもいます。「AB=BA」の場合は、これを"行列AとBは交換可能である"と言います。
かけていく順番がややこしいのでよく追って確認してください。
&mimetex(\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 7 & 8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 \times 5 + 2 \times 7 & 1 \times 6 + 2 \times 8 \\ 3 \times 5 + 4 \times 7 & 3 \times 6 + 4 \times 8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 19 & 22 \\ 43 & 50 \end{pmatrix});
右側の行列を上にずらしてみるとわかりやすい
&mimetex(\begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 7 & 8 \end{pmatrix} );
&mimetex(\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 \times 5 + 2 \times 7 & 1 \times 6 + 2 \times 8 \\ 3 \times 5 + 4 \times 7 & 3 \times 6 + 4 \times 8 \end{pmatrix} );
単位行列とは、(n,n)成分が全て1となり、其れ以外が0であるものをいう。二次の正方な単位行列Eは次の通り。
&mimetex(E = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix});
二次の正方行列Aを考えてみると、乗法は「交換可能」であることがわかる。AE=EA=Aの性質をもつ。これは通常の数の演算に於ける1の性質と同じ(a*1=1*a=a)であるから、これを単位行列とする。
零行列とは全ての行列成分が0であるものをいう。二次の正方な零行列Oとすると、AO=OA=Oであることがわかる。
行列が線型代数学へと発展するなかで得られた成果は、高等教育に於いて咀嚼して教えられる。一部に線型代数学的説明を含みつつも、本格的な説明は線型代数学の項に譲り、基調としては高等教育での「数学C」の教科書・指導要領を踏まえた説明をしてみるとしよう。
行列とはベクトルのあつまりであるとは、前に述べた。もしそのベクトルをベクトル方程式のあつまりとして理解すれば、行列とは方程式のあつまりではないか? 線形とはすなはちかういふ立地に於いて考えられる物である。
座標P(x,y)とQ(x',y')が、&mimetex(x' = ax + by);、&mimetex(y' = ax + by);を満たすときに、P→Qの変換は、次の行列式で表すことができる。
&mimetex(A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix});
&mimetex(\begin{pmatrix} x' \\ y' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix});
この時PとQは線形性を持つといい、PはQの線形写像であると看做すことができる。このやうにして全く関係の無さそうなベクトルOPとOQが、行列式によつて結びつけることができるのである! 方程式 ax + by = 0 や cx + dy = 0をデカルト座標に引いてみると結構面白い性質が見えてくることであろう。
線型代数学ではこれを拡大して「線型空間」を考える。すなはちn次の行列を想定してベクトル成分も次々と増えて行くわけであるが、ここでは二次の行列に限り、「線型平面」として理解を進めて行く。
線型代数学では行列の性質を理解してゆく中で、「行列式」を考えるととても便利であることに気がついた。そこでデターミナント(determinant)と名を与えて個別に扱うことにした。数学Cでは次項のケーリー・ハミルトンの定理ぐらいしか登場しないので残念である。行列Aの行列式は、「det(A)」「|A|」などで表す。成分を書きこんである行列は&mimetex(A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix});などとなつてるけど、これを&mimetex(\begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix});とすると、これもまた行列式を表す。
二次の正方行列Aでは次のように計算できる。
&mimetex(A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}); のとき &mimetex(\det(A) = ad -bc);
ハミルトン・ケーリーの定理とも呼ぶ。これは功労者ケーリーとするか、先駆者ハミルトンを先にするかの違いである。
n次の正方行列Aとn次の正方単位行列Eは次の式をみたすとき、次の性質を持つ。
&mimetex(f(x) = \det(xE - A)); のとき &mimetex(f(A) = 0);
特にn=2のときは、
&mimetex(A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix});
&mimetex(xE - A = \begin{pmatrix} x-a & -b \\ -c & x-d \end{pmatrix});
&mimetex(f(x) = x^2 - (a+d)x + \det(A)E); が &mimetex(f(A) = 0); をみたす。
従って、数学Cでは &mimetex(0 = A^2 - (a+d)A + \det(A)E); が成立する定理をケーリー・ハミルトンの定理とする。
序論で実は既に示されている。
デカルト座標は極座標に展開することが可能である。そうすれば、三角函数の性質から、加法定理により廻転の線形写像を示すことが可能となる。